死籠り
yuez

踏切から身を乗り出せば
生暖かい風が勢いよく舞い上がる
痩けた頬をびたりと打つ轟音は
父の拳の重さそっくりだった

わたしはただ眺めていた
遮断機のぐらりと垂れた腕を
獲物を招き入れる触手さながらに
のっぺりとした非情さで本能を追い立てる
その厳格さと美しさ
血膿をはらんだほおずきの実を
まるごとむさぼり食っていく自然とその力強さを

夕空は今にも孵化しそうに疼いている
ねじれた陽炎のオレンジを
ヒナの叫びが伸びやかに抜け落ちる
警笛がパーンと跳ね
わたしは地面に落ちた影を羽軸で刺した

あとわずかの愛を失えば確かな答えを手にしていたのか
わたしはこの砂利上に散れたのか

遮断機はわたしを見ていた
路傍に転がる石ころのように無表情な身体を
息を殺しながらただじっと見ていた


自由詩 死籠り Copyright yuez 2016-08-15 03:20:15
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