春の屋形船
服部 剛

はらはらと…桜舞う
花冷えの夕空の下
隅田川に浮かぶ、屋形船。
賑わう船内に
三味しゃみの音は鳴り

柱の影で
芸者は男に、酒を注ぐ。

少し離れた柱に凭れ
旅人は独り
猪口ちょこかじかむ両手を、温める。

遠くには、朱色の五重の塔が
身を赤らめつつも、天を指し
頬の火照る旅人も、目を細め
吾妻橋の遙かには
いとも小さい富士の山

酩酊めいてい舟は、夕凪にゆれ
芸者の頬を過ぎる
ひとひらの花

旅人は熱い酒をぐいと、飲む――。
この世の夢に酔うように。  






自由詩 春の屋形船 Copyright 服部 剛 2016-06-23 18:58:58
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