不条理の極みを味わう者
小川麻由美

人生は全くもって奇なるもの
嘘偽りを嫌う者は多い
私は私をおとしめない
そんな心もちで生きている
私が言おうとする事柄に
是非とも耳を傾けて欲しい

旦那 それは私と暮らせる者
彼に試練を与えたものを憎む
彼のどこに落ち度があるのか
彼のどこに恨む所があるのか
彼がなぜ辛酸を舐める必要があるのか
全くもって見当がつかない

例えば私
私のがんは見えないところで
傍若無人な振る舞いをして
臓器を凝らしめる
ここに倫理も何もありはしない

例えば義弟
彼のがんは頭蓋骨の中で
肥大し彼を突き飛ばし
左の自由を奪う
ここに良識も何もありはしない

例えば義父
彼のがんは耳の表面を侵し
一部を失った耳は仲間を
探すだろう
ここに情けも何もありはしない

旦那 それは私と暮らせる者
彼を愛する者はいるだろうが
彼を憎む者を探すのは困難だろう

なのになぜ
こうも覆いかぶさる
旦那への試練 いや
試練などでは言い表せない
なんとも情けない私
幾千も詩を書いても書いても
いい表せないであろう苛立ち

なんという不条理!
この不条理を抱え
すっくと立つ男
それが私の旦那
それを誇る女
それが私

旦那は一度に
がん患者を3人抱えている
現実とは そういうもの

耐えるしか選択がない
これほどまでの試練を
旦那に与えたものを
私は憎む(揺らぎ)
私は本当に憎んでいいのだろうか
ただただ やるせない
ただただ 旦那の幸福を求む


自由詩 不条理の極みを味わう者 Copyright 小川麻由美 2016-06-19 18:44:29
notebook Home 戻る  過去 未来