空をください
千波 一也



空を、ください

だれにも消せない
どこにも消えない
あの空を、

わたしだけの物には成り得なくても
わたしだけの物と覚えておけそうな
あの空を、


許さないでください、どうか

いままで願った一切と
願えなかった一切のこと

命とよばれる一切が
空から降りて
空へと帰する
手筈なら

みだりに
偽り合いたくない、と思うのです


空をください、

一言のうちに尽きて
一言のうちに渦巻く永劫の

哀しみをください、
歓びをください、

優しさを脱いで
厳しさを着て

清澄の果ての汚濁のような
穢れの果ての灯りのような

あの、
空をください


共鳴のひとつ、
朗詠のひとつ、
聡明のひとつ、として

例え
それが誤りであっても

知らず知らずに仕組まれた
仰ぎ方と
伏せ方で

まったく同じ
まったくの他人の
あなたの、

声と、
腕と、
丈と、
胸で、

あの、空をください









自由詩 空をください Copyright 千波 一也 2016-06-06 23:04:49
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