アップライトピアノコンサート
あおば

       160118

穏やかな波がマリモを育てる
丸くなるのはなんででしょうと
ワカナさんは研究している
マリモの動きを見ていると
ぐるぐると回転しているのです
その場で回転するのです

回転する社会構造の中を
アップライトピアノを
二人の人夫が担いでゆく
重いと思うけど
彼らはピアノ運送の専門家
重いなんて顔をしない
人夫という言葉は禁止用語になっているようで
ATOKは漢字変換してくれないが
光合成不足の肉食の現代人には無い粘り腰
アップライトピアノは200キロから270キロもあるけど
重たいなんて顔をしない、仕事ととして雇われたのだから

二昔前の北海道の、たこ部屋にも採用試験があり
砂利を満載した180キロのモッコを持ち上げられないと
不合格となる(モッコは二人で担ぐのだから、二人の息が合わないと持ち上がらない、ひとりあたり90キロ、なんだたいしたことないという勿れ、当時の屈強なたこ人夫の体重は60キログラム程度だったそうで、現在とはかなり体格が異なるのだ。)
アップライトピアノ専用のモッコもあり専門業者は今でも使っているらしい
なにしろ狭隘な日本家屋の中では人力に頼ることが多い
たこ部屋での半強制労働に従事していた強靱なたこ人夫よりも
ピアノ運送の人夫の方が力持ちと言うことになるが
アップライトピアノコンサートの時にはマリモを頭に載せて
二昔前のたこ部屋のたこ人夫のことを考えましょう
彼らはたこ部屋に適応してしまい、それでないと生きていけない、
しかし歳取って、一般社会に戻っても、なかなかうまくいかなかったようです
たこ人夫だった人への差別意識は強く、人並みに扱われないことも多く
理不尽な差別の陰でひっそりと暮らすしかなかった人が多かったようです
彼らのことは誰も気にしませんから、たこ部屋以後のことは分からなくなっています
そして今のブラック企業はたこ部屋よりも酷いと思わせる状況のようです
少なくともたこ部屋は6ヶ月我慢すれば給金もらえて娑婆に出られた
給料不払いのブラックではなかった
ブラック企業は過労死を要求する
睡眠も十分取らせない
たこ部屋は、睡眠時間はしっかりとれた
3食は保証された
風呂にも毎日入れた
酒が好きなものは少しは飲めた
もちろん給金のピンハネは酷い、親方も多重下請けでピンハネされ
すべてのしわ寄せはタコが被る構造になっていたのは今と同じだ
今でも、大阪市西成区の釜ヶ崎に行けば、元気な頃、ロボットのように扱われ
賃金は何重にもピンハネされ、それでも好景気だったのでなんとか生活が出来た
彼らのおかげで、インフラ整備、都市の建設などが効率的に行われ
オリンピックも高速道路も長大トンネルも原発もなにもかも作られた
しかし
歳取って使えなくなった彼らに仕事を世話しようという企業は例外的で
殆どは自己責任よ、若い頃に老後の蓄えをしなかった報いだ
いい気味だ、いくらでも苦しめ、私には関係ないからね
だいたい彼らを人間として見るのがいけないのよと
生活保護なんて取るのはずるいよとの声ばかり
行き倒れた彼らを見ても、何事もなく平然と行き過ぎるわたしたち
せめて、アップライトピアノコンサートの時は行き倒れた彼らも招待して
普段の罪滅ぼしを致しましょう
ピアノの音もいつもよりは少しは響きが良くなり
グランドピアノに近い音色になることを請け合います
二人で運んだアップライトピアノにも意地というものがあります
ピアノフォルテの時代からの職人の意地と努力の蓄積があるのです


初出「即興ゴルコンダ(仮)」
  http://golconda.bbs.fc2.com/
  タイトルは、さわ田マヨネさん








自由詩 アップライトピアノコンサート Copyright あおば 2016-01-18 01:54:06縦
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