さようなら、晴れる人
霜天
さようなら、晴れる人
暮れ際の暖かさ、名残、手のひらの名前を
呼んでいる、聞いている、思い出している
花びらの震える下で潜り抜けた門を
指先で触れるくらいの気配で通り過ぎる
一度過ぎた言葉は、笑顔の人、道のさなかの
誰も彼も通りすがりだから、それはいつまでも優しくて
さようなら、晴れる人
誰もが帰っていく場所を頭の隅に持っていて
触れそうで、触れること、自分を知っている場所を
扉を開ければ、雨に沈んだ自転車と、動けない自分
止まれない涙は静かに、回転する意識の内側へ
過ぎていくことばかりが、こころに少し沈みすぎて
手を伸ばす色褪せたもの、帰るほどに優しくて
寄り添うことも出来なくて
さようなら
さようなら
きっともう、届かないくらいの暖かさ
雨のあと、虹になる
僕らの漏らした溜め息の音
触れるように吸い取って
あとはもう、遠ざかるだけ
またいつか、その時は、暖かい雨の日に
さようなら
さようなら