飛びつきながらボールをさばくぼくらの姿は
天野茂典
ノックを受けた
10本 50本 100本
陸上競技場でだ
打っているのは父だ
容赦なく短いボールや
横へのボール
前と後ろのフライ
ショートバウンド
父のノックは続いた
ぼくのからだもしなやかに
ボールについていった
父は店をサボって
バイクの後ろにぼくを乗せて
やってきたのだ
父と子の1000本ノックとまでは行かないが
打って打って打ちやまぬ父と
飛びつきながらボールをさばくぼくらの姿は
400mトラックの陸上競技場でも
コウモリのようにしか映らなかったろう
だんだん夕焼けてたそがれがやってくると
父と子は
くたくたになってグランドを後にするのだった
父の愛をひしと
感じた
そうしてグローブはグリスを塗って
ボールをつめて
枕にして寝た
父は帰って旨そうにビールを飲んだ
それから寿司屋のおやじになるのだった
電気の下で
父の顔は夕焼けのようにてかった
2005・02・18