シネマの日々
服部 剛

朝起きて、のびをして
飯を食い、厠に入り
玄関のドアを蹴っ飛ばし、
彼の一日は始まる。

日は昇り、やがて暮れゆく迄の間を働いて
単調なる繰り返しの、気怠さの…
口をへの字の忍耐の(時折しょっぱい、涙の)
色もとっくに褪せちゃった
日常というものを
『もう一歩』――掘り下げて
低い目線のカメラで、歩めぬものか。

もし、一日というものが
モノクロームの絵巻なら
幾重もの場面々々の只中の
 シーン① の一隅にでも
手にした絵筆で
蛍光色を塗ることは、できまいか。

カメラのレンズ越しに
絞り…絞り…フォーカスする
軒先の庭をそそと往く(一匹の蟻)に宿る
小さな奇跡を見出すように。

映画監督の視力で、彼は立つ。
むっと睨む視線を芯にして――尖らせ
素朴なる風景に、穴の空く迄。  






自由詩 シネマの日々 Copyright 服部 剛 2015-11-01 22:53:28
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