詩の学校 【ハンツピィの宴2015】
北大路京介


2015 10月24日、25日のツイッター上の企画
 #空想の街【ハンツピィの宴】に参加しました。
「詩の学校」というお話を書きました。2日目は主にガールズバンドのお話。
詩について考えてることをちょこちょこ散りばめてみました。

ハンツピィの宴 については こちらをごらんください ↓
http://www4.atwiki.jp/fancytwon/m/pages/16.html?guid=on


~~~  ハンツピィの宴2015 ~ 1日目 ~~~

世界最高峰の野球リーグの強豪チーム・ブルーソックス。
そのブルーソックス公認バー バーGionPark は、北区ジェスル駅から徒歩30秒、KKビルの3Fにある。

「Gion Park」はブルーソックスの本拠地球場の名前。店内のプロジェクターと大型テレビでブルーソックスの

試合を観戦できる。試合が行われる時間は、ブルーソックスファンの熱気で盛り上がるが、中継が終わり間もな

くすると静かな夜カフェへと変わる。
 
基本的に営業時間は18:00からで、平日昼間はレンタルルームのようになっている。
ちなみに土・日・祝日は昼カフェで12種のブレンドハーブティーやオリジナルスコーンが楽しめる。
 
月に一度、その昼カフェとなったGion Parkで詩の学校が開かれる。
もちろん詩に興味のないお客さんが来ることもある。

先生はジェスルを拠点に活動する女性詩人のカナコ。
噂では植物や動物の声が聞けるらしい。
日本という国の民族服を愛していて、いつもそれを着ている。和服と呼ぶらしい。

シーナは今年大学生になったばかり。ガールズバンドでベースを弾いている。
彼女の憧れはシンガーソングライターのMisterPepper。
彼に憧れてシーナも作詞作曲をする。
作曲は3歳から得意に思っているが、作詞はからっきし。

バンドで自分の作詞した歌を演奏したいが、いつもボーカル担当の子からダメだしされて唄ってもらえない。
ボーカルの子が作詞して、シーナが曲をつけることが多い。
歌詞のついていないシーナの曲もたくさんある。

シーナはどうしたら良い歌詞がかけるのか悩んでいた。
たまたま入ったGion Parkの昼カフェ、ちょうど詩の学校の日だった。50クルーク払うと詩の学校に参加できる

。貧乏学生にとっては高い額だったが、将来印税生活を考えれば安いものだと払った。

シーナの他には毎回参加してそうな生徒ばかりだった。
40代後半に見えるメガネのサラリーマン風の男、
モデル体型の不思議ちゃんっぽいアラサー手前の女、
ぽっちゃりした弁髪の大学院生の男、
白髪のおばあちゃん。

カナコ先生は用意してきた紙を生徒たちに配った。
そこにはMisterPepperの詩が書かれていた。
歌詞だけでなくMisterPepperは散文詩も書く。
それだ。国語の教科書にも載ってたやつだ。

授業の最初は、この詩を各々で朗読する。
先生は詩の朗読の姿勢や気持ち、発声について話した。
シーナは、歌詞の書き方を知りたかったのに どうやら間違えたかのように感じはじめていた。

朗読し終えたあと、隣の席の人と朗読した詩の感想を語り合う時間となった。
シーナとペアになったのは、不思議ちゃんだった。
シーナはMisterPepperファンだけあって熱く語った。

不思議ちゃんは、ベッキーというらしい。
ベッキーっぽいから友達からそのように呼ばれているのだとか。
「すごくポジティブになれる! MisterPepperは強い人だと思う!」と言われてシーナは嬉しかった。

ベッキーとは仲良しになれそうと思ったシーナは、MisterPepperのCDを貸すことになった。
そんなこんな喋っているうちに先生の声がした。

「はーい。じゃあ次は、詩を書いてもらいます。今日のお題は、そうだなぁ 『ハンツビィの宴』にしようかな


いまから1時間で書いてください。
お外に出て考えてもいいからね。」

シーナは真っ青になった。
いきなりそんな詩なんて書けない。
書けないから参加したのに。
ベッキーは「お散歩してくるー」とすぐ外に出てしまった。
シーナは頭を抱えて20分ほど固まった。

見回すと
カリカリ詩を書いてる者、
すでに書き終えてスコーンを食べている者、
ベッキーと同じく散歩に出ているのか姿の見えない者。
先生も何か書いている。

ハンツピィの宴の記憶を想い出し、とりあえず書き出してみる。
小学生の作文みたいだけれど、なにも書かないよりはマシだ。
そして、「ポムの星は毒がある」をリフレインさせて歌詞のサビみたいなのを作ってくっつけた。

ベッキーは散歩から戻ってくるとハーブティーとスコーンのセットを注文し、スラスラっと書いた。
シーナはハーブティーがうりの店と知りながらコーヒーを頼み、時間ギリギリまでペンを走らせた。
書き終えた頃にはコーヒーはすっかり冷めていた。

ひとりひとり1時間以内にで書いた詩を発表していく。
まずは辮髪の男。
ボソボソっと喋ってすぐ座った。
 (・・・もしかして、1行?!)
シーナは大きな衝撃を受けた。
1時間あって1行しか書かないなんて。

次はベッキー。
ベッキーは『ボムの星マン』という童謡のような幼い子が見るアニメの主題歌のような詩を朗読した。
これもシーナにはショックだった。
短い。
8行ほどだった。
シーナは30行びっしり書いたのだ。

シーナに順番がまわってきた。
朗読はよくわからない。
シーナは即興でメロディーをつけて唄った。
ウケると思ったのに反応がいまいち。
各々の発表のあとに先生がコメントを言うのだが
「うん、いいですね。いいと思います。」のひとことだけ。
シーナはがっかりした。

白髪のおばあちゃんは、詩らしい詩を朗読するのかと思いきや、詩ではなかった。
落語だった。
ポムの星そのものにポエジーがあるので、落語でも不思議な話に聞こえる。

良いかどうか全然わからなかったが詩らしい詩を読んだのはサラリーマン風の男だった。
きっと優しい人なんだろうなと思った。
そして、最後に先生が自作の詩を発表する。
仕事のないおじさんと死刑囚が出てくる詩だった。
いろいろ考えさせられた。

サラリーマン風の男がハガキサイズのカードを皆に配った。
それぞれの詩を聞いて絵を描いたらしい。
水彩絵の具かな。抽象画でよくわからないけれど優しい線と色をしていた。
彼は言う「僕は人の声に色がついて見えるんですよ」

たしか共感覚というんだっただろうか。
文字や声に色を感じる人の世界。
シーナは文字や音を白黒にしか感じない。
いや白とも黒とも感じたことはなかった。

詩の書きかたは分からないままだったが、いろんな人がいることを知り、シーナはそれなりに満足していた。
シーナはベッキーといっしょに帰った。
ベッキーが幼い頃に両親が離婚していること、
新しいお父さんが自分にすごく気を使ってくれてることなどを聞いた。

「こんど私、パントマイムの発表会があるんだけど見に来ない?」ベッキーに招待券を渡された。
シーナはまたあらためて、いろんな人がいるなぁと深く感じた。


 

~~~  ハンツピィの宴2015 ~ 2日目 ~~~


今夜はハンツピィ・ナイト。
ハンツピィ・ナイトLIVEというイベントがあり、シーナのバンドは21時に野外ステージに立つ。
昼過ぎまで眠ったシーナは重たいベースを担ぐとリハーサルへ向かった。

Darkness pot。シーナのバンド名。
シーナ以外のメンバーは「やみなべ」と呼んでいる。
ボーカルのシオン、ドラムのミカ、ギターのユキとの4人。中学からの同級生だ。
学部学科は違うが同じ大学に通っている。

リハを終えて、音楽スタジオに通し練習へと移る。
今夜のLIVEでやる曲順どおり演奏し、シオンがMCもてきとうにしゃべるので面白い。
本番は本番でその場にあったフリートークもできるのでシオンの頭と舌の回転にシーナは毎度毎度脱帽している



スタジオ前のカフェでLIVEまで鋭気を養う。
シーナは昨日の詩の学校でのことを話した。
シオンはバンドの全作詞を手がけている。
ユキはインスト大好きなのでめったに作詞しない。
ミカは友達のバンドにも歌詞を提供している。
 

ミカは「どうして書けないの? 書けないほうが不思議」と言うし、
シオンは「作詞なんてかんたんでしょ。まず、牛が空を翔んでたらそこからストーリー広がるし」と。
シーナはまずその牛が空を翔ぶという発想ができないのだと笑った。

シオンは語った。
バンドが売れたら、シーナがソロ活動で好きに作詞して唄えば良いと。
やみなべでは自作の詩を唄わせて欲しいと。
シオンの作った詞も曲もDarkness potのクレジットにして、もし印税が入るなら4分割になってもかまわないと


むしろそうしたいと。

シオンの語る瞳はキラキラしててカッコ良かった。
でも、シーナはもやもやとした。
シーナは自分で書く詩をメンバーに認めてもらいたい。
自分の歌をシオンの口で、声で唄って欲しい。

「私、シオンが自分から唄わせてくれっていう歌を作る!作りたい! いつになるかわからないけど頑張る!」
宣言した。
「がんばれよ」とユキが肩をたたく。
ミカが「いつでも作詞手伝ってあげるしね。共作ね」と笑う。

シオンが言う
「みんな音楽以外にもしたいことがあるでしょ。
わたしは映画を撮りたい。
ミカはファッションブランド立ち上げても良いし。
ユキはJAZZもやりたいでしょ。
そうやってみんながバラバラになったときに、シーナはシーナのしたいことをして。

おのおのが好きなことをして、
また集まってLIVEやって。
そういう人生が良いなぁ。
いまは私が唄うのをみんなで支えて欲しいんだ。頼むよ」

シオンにそう熱く言われ、シーナはしょうがないなぁっと思ってしまった。
自分の歌を大勢の前で唄いたいけどそれはもう少し未来でもいいかもしれない。
「ポムの星を使ってお菓子作ってきたから、みんなで食べよう♪」
ミカがクッキーみたいなお菓子を配った。

4人が4人とも猫のような尻尾や耳が生えた。
ポムの星を食べるのは初めてではないけれど、シーナは自分が「詩」になったような気がした。

「天使か悪魔のような翼が生えるといいのになぁ」ミカはちょっと残念そう。
「シーナは、猫より犬っぽいのになぁ」シオンにからかわれる。
「タバコ吸ってきていい?」ユキはあいかわらずマイペースだ。

20時過ぎ、ステージは熱気であふれていた。
ポムの星を食べて獣人化してるのか仮装しているのかわからないが、
普段とは違う多種多様な人種・衣装の観客が踊ったり叫んだりしている。

演奏前は毎回緊張する。
シーナは全身のストレッチをする。
落ち着かないからだ。
おかげで身体は柔らかい。
21時、ベースを抱えてステージへあがる。
ジャンジャンジャージャジャージャジャカジャジャン
イントロのギターリフがなり、ドラムと同時にベースを弾く。

そこに言葉はないのにシーナは自分が、バンドが、会場が「詩」になってると感じた。

もしかしたら詩は言葉ではないのではないのだろうか

世界はまわるとシオンが唄いはじめる。
間奏では、ユキがギターソロを尻尾で弾くといったハンツピィ・ナイトならではのパフォーマンスを見せる。


LIVEの最後の曲は 3コードのシンプルながら強烈なロックンロールナンバー。
4人のジャムセッションで作り上げた最初の曲。

シーナの頬をつたいながれおちるものがあった 


散文(批評随筆小説等) 詩の学校 【ハンツピィの宴2015】 Copyright 北大路京介 2015-10-26 00:18:16
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