きこえる(ゴル投稿)
百均

僕の隣に座っていた人が死んだ。それは呆気ない春の日の出来事。僕たちはその日待ち合わせをして、同じ電車の同じ車両に座った、中学校の同級生だった。なぜ死んだのかはわからない。ただ、僕たちが昨日この場所で会う約束をして、その時にお互いたのしい時間をつぶせるように、お菓子やゲームを持ってこようと決めたことは覚えていた。なぜ死んだのかはわからなかった。警察の取り調べが始まったあの日、僕は学校をサボっていた事実だけが浮島みたいに僕を地面に下ろしてくれなかったから、しつこく疑われたのだった。しかし、死因も分からなければ、死んだ理由もわからないし、僕たちの関係に同級生以上の関係はなかったから、すぐさま開放された僕は、待ち合わせをした駅にむかった。僕には親がいなかった。正確には正しい親がいなかった。僕を産んでくれた母は僕を産んだあと、交通事故で亡くなったそうだ。オヤジは僕を産む前に崖から身を投げてしんでしまったらしい。僕は遠い親戚の家に引き取られた。だからどうした、という訳じゃない。僕はとても幸せに暮らした。子供のいなかった叔父さんにとって、僕はまるで本当の親子のような扱いの中で育てられ、今まで生きてきたし、僕が関係をいくら断ち切ろうとしても叔父さんは僕をまるで本当の息子のように手放さかなかった。まるで安いメロドラマみたいだと、最近覚えた言葉を言った時は、張り倒されて頬が真っ赤になった。話を戻そう。僕は駅前の花屋さんで500円の安い花束を買った。改札で駅のプラットホームに入るための入場券を買うと、僕は駅の構内に入った。僕達が乗った電車のホームは三番線のホームだった。階段を上ると沢山の人達が僕のもうやってきた。電車がきたのだ。僕は手すりに捕まってトボトボと三番線のホームに向かって歩いて行った。時折ニンゲン達のヒソヒソ話が聞こえたり聞こえなかったりした。僕は耳を澄ました。改札を抜けて走ってくる女の子が、僕にぶつかりながら三番目のホームに降りていった。僕は携帯電話の電源を切って、イヤホンを耳にさした。ポケットにはカッターナイフが入っていて、僕はその刃をチリチリと言わせながらゆっくり三番線のホームに下りる階段を下りた。僕は危ない人間だ。まるで安いドラマみたいな。あれはメロドラマではなくホームドラマだった。昨日終わったドラマには続きがあり、昨日死んだ友達には明日がないという、だからどうしたって、どうしようもない。電車が来たのだ。僕は階段を下りる。僕はフードを被っていた。駅のホームを覆う長細いコンクリートで出来たトタン屋根を支える、一本一本の柱に沢山の花が手向けられていた。僕はその内の一つにさっき買った名前の知らない花々の根元を切って縫い付けた、というと残酷な花束を適当に置いた。例えば手を合わせてみる。ニンゲン達の噂話は大抵があてにならず、大抵が歪曲していて、それでいて本人達にとっては正しいことだらけだから、僕も同じようにここで死んだ友達の名前を思い出そうとして思い出せない。僕は昨日死んだ同級生の名前すら思い出すことのできない人間なのだという噂話を、カッターのチキチキとした音の中に忍ばせた。携帯電話がなることのない駅のホームの中にやってきた、黄色い電車に乗り込む人たちの中に紛れて。僕は終点までずっと優先席に座って、音楽が聞こえるふりをしていた。



即興ゴルコンダ(http://golconda.bbs.fc2.com/?act=reply&tid=5230193#11345878)


自由詩 きこえる(ゴル投稿) Copyright 百均 2015-10-17 17:44:16
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