聖画ノ声   
服部 剛

海岸沿いを走る車は、山道に入り
坂を上る、木々の葉群の隙間に
一瞬、輝く太陽の顔は覗き

夜の列車のドアに凭れた窓から
ふいに見た、夜空に浮かぶ
ましろい盆の月は夜を照らし

――昼も、夜も、空の
  巨きな目は
  何処までも…ついてくる 

   *

教会の扉は、少し開かれていた。

祭壇脇に掛けられた、油絵
十字架に項垂れるひとは
ゆっくり…顔をあげ
左右の両手を、こちらに開いた。

   *

古都の寺の茶室に、入る。

ふるびた壁に掛けられた、水墨画
観音像の細い目と
私の目が、合った。

   *

青空の太陽も
夜空の月も
黙して――世を見守るように

旅人がどの位置に立っても
聖画に描かれたひとの目は、動く。

その前に立っても
遠く離れ去っても

そそがれている
透明な

目  






自由詩 聖画ノ声    Copyright 服部 剛 2015-09-14 00:00:05
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