夏の夜風
服部 剛

二十年前、富山に嫁いだ姉の結婚披露宴で
お約束通り、親父はウェディングドレスの
裾を踏んだ。十代だった僕は、ポケットに
手を突っこんで「贈る言葉」を歌った。

最後の挨拶で新郎のお兄さんは、呟いた。
「人間って…泣く時は泣くんですね」

あの頃、まだ影も形もなかった、命。
姪っ子・甥っ子と初対面した日の映像を
映し出す心象のスクリーンに目を細める
僕もいつのまにやら…一児の親であり

明日会う姪っ子は中学二年で、口数も減り
小学一年生の甥っ子はわんぱく坊主となり
思えばあっという間の二十年――北陸新幹
線「かがやき」に乗りあっという間に富山
駅に着いて真新しいホームからエスカレー
ターで下りる。

改札を出ると、構内の柱に結ばれた笹の葉
と七色に煌めく短冊は夏の夜風にひらひら
揺らめいて…久しく訪れた旅人を祝福する
無言のお辞儀を横切り、駅の外へ出た僕は
夜のタクシー乗り場へと歩いた。  






自由詩 夏の夜風 Copyright 服部 剛 2015-08-28 18:52:12縦
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