子供たちに母の背中を
天野茂典
母はぼくを背負って
毎日踏み切りを渡った
栄耀失調だったぼくは
医者に通っていたのだ
記憶は曖昧だが
ぼくたち母子は貧しかった
ある医者は
『下痢をするのなら食べさせてはいけない』
といい
ある医者は
『下痢しでもなんでも食べさせなくてはいけない』
といった
母は母性本能で
子供に食べさせることを選んだ
ぼくが毎日通っていたのはどちらの医者か
分からない
踏み切りと
背負われた母の背中を
おぼえているだけである
1944年ごろの話だ
母の選択肢が間違っていれば
今のぼくはない
飢え死にしてゆく
貧しい国々の子供たちを思うとき
突き動かされる瞳がある
21世紀になったいまでも
多くの子供が倒れてゆく
ぼくはなにもいえない
無力なだけだ
クオーク 子供たちに力を
クオーク 子供たちに食料を
クオーク 子供たちに飲料水を
クオーク 子供たちに医療を
子供たちに母の背中を
2005・02・13