路上の歌人   
服部 剛

君は今日も、渋谷ハチ公前の
路上でギターを掻き鳴らし
スクランブル交差点を行き交う
無数の靴音の、彼方には
紫色の夕空と…ひとすじの雲があり

警察に止められ、君の路上の歌声は
3曲で終わった

――3曲目が、よかったよ
軽く君に手をあげてから
人波に紛れた僕は
街を彷徨い、やがて日は暮れ
道玄坂の路地裏に潜りこみ

「Hard Rock Cafe」の座敷で
ピンク色のスプモーニを、一杯

黒褐色のポスターに
いつの間にか世から姿を消していた
カート・コバーンの澱んで澄んだ、瞳の奥は
この世の果てを射抜いたようで
僕の心臓は畏怖に…震え

今、店内にはスプリングスティーンの
「涙のサンダーロード」が流れている
そう――僕等は、あの頃から探していた
そして、これからも

この脳髄に、夜明け前の雷鳴がひらめ
あの歌を  






自由詩 路上の歌人    Copyright 服部 剛 2015-07-13 23:58:40縦
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