◎芽生えるもの
由木名緒美
たった一粒の雨垂れが
倒れかけた茎を脈動させるその隙に
あらゆる旱魃を凌駕してしまう
むせび泣きは慈雨となり山岳を揺り起し
靄を吐き出す葉脈が世界を真白に染める
穴の開いた如雨露を虚しく握る手で以って
世界中の欠落を満たしうる先駆けになると
神隠しでさえ証左の嬰児を奪えない
貰い泣きのような奇跡の伝染を
名も無い農夫が呼び寄せるのだ
腫瘍と引き換えに増殖する階層構造
脈動は憎悪と憐憫を削入し
人々は流れ着く岸辺に選択を持たない
それでも見えざる勾配はその比率をゆるやかに下り
小さな手の平に数字をなぞる母の微笑が
戯れの蝶々結びに均衡の洗練を見出すだろう
錆びた鉾に刈り取られた片足は
その歩幅で隣人に歩み寄るのか
譲歩を象徴する無言は風景を暖め
握り締めた共生が風に煽られる
砂漠の伝言は異国の白昼夢に雫を落とす
雨雲を追えばその創唱に一声を投げられるのか
血は赤く肌はやわい
その一節が凄惨な悲劇を意味するものであっても
私達は歌わなければいけない
大地の裂け目が癒えるまで
そこに溜まるものが澄んだ湧き水となり
如雨露を満たしうるまで