◎芽生えるもの
由木名緒美

たった一粒の雨垂れが
倒れかけた茎を脈動させるその隙に
あらゆる旱魃かんばつを凌駕してしまう
むせび泣きは慈雨となり山岳を揺り起し
靄を吐き出す葉脈が世界を真白に染める

穴の開いた如雨露じょうろを虚しく握る手で以って
世界中の欠落を満たしうる先駆けになると
神隠しでさえ証左の嬰児を奪えない
貰い泣きのような奇跡の伝染を
名も無い農夫が呼び寄せるのだ

腫瘍と引き換えに増殖する階層構造
脈動は憎悪と憐憫を削入し
人々は流れ着く岸辺に選択を持たない
それでも見えざる勾配はその比率をゆるやかに下り
小さな手の平に数字をなぞる母の微笑が
戯れの蝶々結びに均衡の洗練を見出すだろう

錆びた鉾に刈り取られた片足は
その歩幅で隣人に歩み寄るのか
譲歩を象徴する無言は風景を暖め
握り締めた共生が風に煽られる

砂漠の伝言は異国の白昼夢に雫を落とす
雨雲を追えばその創唱に一声を投げられるのか
血は赤く肌はやわい
その一節が凄惨な悲劇を意味するものであっても
私達は歌わなければいけない
大地の裂け目が癒えるまで
そこに溜まるものが澄んだ湧き水となり
如雨露を満たしうるまで




自由詩 ◎芽生えるもの Copyright 由木名緒美 2015-07-11 22:08:23
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