ひとり
佐々宝砂

ひとり、は飛べるが、
ふたり、は飛べない。

雨のなかに手を伸ばすと雨姫の声が聴こえる、
きゃっきゃと笑いながら、
誰かをダンスに誘っている。
眠ったままのこどもが浮き上がる。
雨姫のところへ。

雨姫のドレスは暗い。
流れるしずくが
見えるか見えないかのくらさで。

どこかあまり遠くないところで鳧(けり)が鳴く。
夜に鳴く鳥は夜を飛ぶだろうか。

雨姫のダンスにはリズムがない。
あるいはひどい変拍子なので私にはリズムがわからない。
夜鳴く鳥が合いの手を入れる。
私にはわからないリズムで。

浮き上がったこどもが両手を天に伸ばす。
雨姫がその手を取る。
連れていかないで。
ううん。
連れていっちゃって。
その子が飛べるうちに。

ひとり、は飛べるが、
ふたり、は飛べない。

私は目を閉じて眠ろうとする、
そのまぶたに、
圧倒的な波が押し寄せる、

ふたり、でも
溺れることはできるかもしれない。


自由詩 ひとり Copyright 佐々宝砂 2015-06-15 01:06:36
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