黒い山
片野晃司

わたしたち、ちいさな山のちいさなおうちで、朝食のお皿を並べて二枚、三枚、並べているうちに足りなくなって、並べても並べても足りなくなって、テーブル継ぎ足しても足りなくて壁つきやぶって外に伸ばして、それでも足りなくて木の下に小屋を作って、木の上にも作って、枝を組んで葉っぱを乗せて、穴を掘って土をたいらにして、雨で流されて風で飛ばされて火事で黒焦げになって、それでもすこしは生き残って、ちいさな山にちいさなおうちを建てて、また殖えて殖えて。

プリン食べたい。お皿に出してプリンを食べたい。牛乳はよく噛んで、コップも噛んで、お皿も噛んで、テーブルも、床も、土台も岩もみんな噛み砕いて、ベルトコンベアで運んでいって、山の上に高く高く積み上げていって、てっぺんにおうちを建ててお皿の上でプリンを食べたい、岩も山もみんな噛み砕いて、ベルトコンベアで運んでいって、高く高く積み上げていって、さいごにひっくりかえしてお皿の上でプリン食べたい。

どんどん殖えてわたしたち、くしゃみすれば殖え、スキップすれば殖え、ジャンプすれば足の間、スカートの裾、わきの下やら耳のうらやらぽろぽろこぼれてたまごだったり種だったり、苔だったりきのこだったり、ひよどりだったりもぐらだったり、へびだったりきつねだったり、たくさんたくさん殖えて殖えて、殖えたわたしたち)から生まれたわたしたち)から生まれたわたしたち)から生まれたわたしたち)から生まれたわたしたち)から生まれたわたしたち、おかあさんのめだまの穴には窓ガラスをはめて、あたまのなかにまるいベッドを置いて、ろっこつに屋根を乗せて、胸のなかはひろい食堂にして、こつばんの穴を玄関にしてその先は庭にして、苔が生えて草が生えて花が咲いて木が生えて、耕して畑を作って、なべで湯をわかして、そこへとれたての野菜たちと手をつないで入っていって、さいごにはおいしくたべられて、肉やら皮やらいろいろうまいぐあいに分けられて、めだまの穴には窓ガラスをはめて、胸のなかはひろい食堂にして、お皿出して、ひっくりかえして、みんな噛み砕いて、積み上げて山にして。


自由詩 黒い山 Copyright 片野晃司 2015-06-11 20:42:09縦
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