空中ブランコの夢
服部 剛

黒いしるくはっとの彼は
遠い過去から訪れた
謎の旅人

呆けたように、宙を見る
彼の目線のその先は――
昔々のサーカス小屋

観客席を埋め尽くす
鰯の面した人々は
小さい口をぽかんと空けて
一人の男を仰いでる

中天に、逆さ吊りで、腕を組み
泰然自若で かっ! と見開く眼球に
マンネリズムの歴史の色を
蘇らせる、威力あり。
(場内しーんと静まり返り)

鰯の群れの只中で
麦酒片手に赤らむ、僕は

 とくり、とくり…

高鳴る胸に思わず、片手を
あててみる



  ※この詩は「残響―中原中也の詩によせる言葉―」
   町田康(NHK出版)の「サーカス」を参考に書きました。  







自由詩 空中ブランコの夢 Copyright 服部 剛 2015-06-05 22:42:02縦
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