優しさのお返し
komasen333

誰かに優しくしてもらう。
優しさのお返しをしようと思う。

けれど、
その時にはもう
その誰かはいない。

どんなにお返しをしたくても
もうお返しはできない。

日々は流れて
歳月は重なって
人生はすれ違っていく。

赤の他人なのに
あんなに優しくしてくれた。
家族のように優しくしてくれた。

いつかお返しをしようと思っていても
その「いつか」を先延ばしにするばかりで
きっとお返しをしようと思っていても
その「きっと」を後回しにするばかりで

誰かに優しくしてもらった。
その記憶は思いもしないタイミングで蘇って
「なんとかしてお返しをしたかったな」と
少しの後悔を噛みしめさせる。

もう、返せない
もう、叶わない
どこにいるのかもわからない
生きてるのかさえわからない
あの人に優しくしてもらった記憶。

返せなかった優しさ
行き場を失くした優しさのお返し

仕方なく私は
仕方なく君は
あの人とはまた違う誰かに
さり気なく、さり気なく、優しくする。

赤の他人のまま私は
赤の他人のまま君は
あの人がくれた優しさのように
また違う誰かに
それとなく、それとなく、優しくする。

優しさの受け手である誰かが
その優しさに気づこうが気づくまいが
さり気なく
それとなく
あの人がくれた優しさのように
自分なりの優しさをそっと誰かに。


自由詩 優しさのお返し Copyright komasen333 2015-01-09 20:08:38縦
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