ハネ蟻のダンス
オダ カズヒコ





グラスをのせるコースターの上で
ハネ蟻がバレエを踊っている
勢いよく足を屈伸させ
股を180度に開脚させる

そして一回転半

せまい舞台とはいえども
どこまでも彼女は
中心となる一点を見つめ

羽を広げ
顎を反らせ
弓なりの胸のカーブ

彼女のシューズは
激しい跳躍のためにすりきれてしまい
禁煙というステッカーの貼られた壁の
手すりに引っ掛けられた
ふたつの
つま先がボロボロのシューズ

信号でタクシーを止めて
後部座席に乗り込んだ彼女
通りの薬局の角を曲がったタクシーが
そのまま視界から消えてしまう

僕は喫茶店の
テーブルの上のコースターに
残されたハネ蟻の羽を一枚
ふぅーっと吹き飛ばす

隣のテーブルの上で
また別のハネ蟻が
不器用にツイストを踊っていた


自由詩 ハネ蟻のダンス Copyright オダ カズヒコ 2015-01-08 20:09:33
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