旅の列車にて
服部 剛

平日の空いた車内に腰かけて
「記憶のつくり方」という本を開いたら
詩人の長田弘さんが、見知らぬ町を旅していた。

喫茶店に腰を下ろした詩人は
ふぅ…と溜息をひとつ、吐き出し
哀しい歴史を帯びたルクセンブルクの
素朴な珈琲カップの柄を愛でながら
ずず…と啜る。

列車の中で読書して
すっかり旅人気分の僕は
昨日の喫茶店で啜った
珈琲の苦みを、味わっていたろうか。

 急ぎすぎちゃあいないか?
 深呼吸はしているか?
 瞳は曇ってないか?

そんな内面への問いに、耳を澄ましてい たら
車内に一瞬――夕陽が射した。  







自由詩 旅の列車にて Copyright 服部 剛 2014-11-28 23:23:58
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