その日、風鈴の割れる音をきいた
あおば

            140826


ニイタカヤマノボレの暗号に
我勝ちに風鈴を粉々に砕いた
冬の最中にわざわざ探し出して割ることもないのにと思っていたら
なにごとも徹頭徹尾完済しないでは置かない目に居竦まれ
風鈴を所持するのは軟弱な非戦主義者だ、非国民だと罵られ
向こう三軒両隣の恥とされ、下手すると村八分にもなりかねない
それ以来、我が家にガラス製の風鈴が来ることはなかったが
ある夏の日、青銅製の薄い風鈴が北の軒下に下げられ
可憐な澄んだ音を立てていたのを記憶する
煩がる隣人に遠慮したのかすぐに撤去された軒忍もない軒下には
暑い乾いた風が屯してざらざらした砂埃も堆積し目を向ける人もなく
居場所のない粗末な風鈴がどこに往ったか今では探す術も無く
耳の奥に微かに残るチンリンカラコロたおやかな音色だけが
彼の儚い存在証明となっている
短い夏の思い出に軒忍に下げられたくっきりとした絵柄の風鈴
爽やかにたおやかにはしゃぐ姿も記憶の底にだけ踊っている
風鈴が割れるのは犯罪者の仕業ですと刷り込まれたこぞの冬




初出「即興ゴルコンダ(仮)」
  http://golconda.bbs.fc2.com/
  タイトル提出は、ほしこさん。




自由詩 その日、風鈴の割れる音をきいた Copyright あおば 2014-08-26 10:18:12縦
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