痒い夜
佐々宝砂

アトピーを掻きむしることのほかに
何ができるわけでもない夜
手の甲をがりがりと掻けば
私がこぼれる

私であったものが
はらはらと床に落ちて蓄積する

少し血の滲んだ指に絆創膏を貼って
いざ寝ようと布団を敷いたが
またも痒くて眠れない
指を掻いたがまだ痒い
足を掻いたがまだ痒い
顔も背中も胸もお腹も
肛門のまわりまで掻いたが
それでもやっぱり痒くてたまらない

どうやら痒いのは布団の下の床である

しかたないので布団を片付け
布団の下のカーペットも片付け
板張りの床をがりがりと掻けば
ぼろぼろと床板がはがれる
ああ掻くってきもちいい
欲望のおもむくままに掻きまくる
掻いて掻いて血が滲むまで掻いて
ふと思い出す
旧約聖書レビ記の一節

あわててぼろぼろになった板を布で覆い
カーペットをもとに戻し
布団を敷いて
無理矢理に目を閉じてみたが

今度は夜が痒くてたまらない
そこにここに
あっちこっちにあって汲み取れない夜
その夜自体が痒くて眠れない
さてどうしたものか
レビ記には対処法が書いてあっただろうか


自由詩 痒い夜 Copyright 佐々宝砂 2014-08-18 23:30:32
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