69回目の夏におけるベルリンの壁のような隔たり
komasen333


保守派の彼女は言った。
「先の戦争は敗戦。
戦略や戦術が間違っていた」



リベラルの彼氏は言った。
「先の戦争は終戦。
そもそも戦争すること自体が間違っていた」



先の戦争は
戦いに負けたことを意味すると同時に
戦いが終わったことを意味している。



一度も
「終戦」という用語を使わなかった彼女は
先の戦争の是非
様々な戦争の是非には全く言及しなかった。
最後の最後まで戦略論や戦術論だけを滔々と述べた。



一度も
「敗戦」という用語を使わなかった彼氏は
先の戦争の戦略や戦術の是非
様々な戦争の戦略や戦術の是非には全く言及しなかった。
最後の最後まで外交論や平和論を滔々と述べた。



議論は平行線を辿るどころか
ベルリンの壁のように絶対的な隔たりで
双方が独り言を延々と繰り返しているかのようで。



どちらの言い分にも
ある程度共感できる部分はあると思いつつ
議論とはとても呼べない乖離が気がかりだった。



「敗戦」という土俵
「終戦」という土俵
「戦略論」や「戦術論」という土俵
「外交論」や「平和論」という土俵が
交わるようで
肝心なところで交わっていかない。



完全に独立した土俵として
評価や価値が固定化して
歴史的観点の過剰分散と
各観点の超絶的な孤立が加速する縮図を見た気がした。



「先の戦争」と言いながら
共通土俵として語っているつもりが
全然交わらない主張を
全然交わらない評価を
全然交わらない価値を
それぞれの観点で
それぞれの箱庭で
ただ述べるだけに終始しているだけではなかったか。



眼前に相手がいるにも関わらず
自説に向かって自説を語り
持論に向かって持論を語り
聞き手なき状況をリフレインしていただけではなかったか。



絞り込むべき議論の土俵が
優先的に語り合うべき議論の土俵が
未だに定まっていない気がした、69回目の8月。


自由詩 69回目の夏におけるベルリンの壁のような隔たり Copyright komasen333 2014-08-15 00:38:06
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