形見の杖  
服部 剛

親父の血管は動脈硬化で、か細くなり
心もとないこれからの日々を思い
深夜にぱっちり目覚めた、僕は
汗を拭って、身を起こす

今頃、隣町の空の下
親父はすやすや寝ているだろうか?
気が気でないまま、壁に立てかけた
祖母の形見の杖を、手に取り
両手で握り
暗がりに懐かしい面影を浮かべ
懐かしい瞳をみつめる

祖母が旅立った、朝
(あちらの世界)から
寝ている僕を呼び起こした
あの叫びを思い出し、今度は僕が


おーーーい おぉーーい ぉーぃ………
親父を、助けてやってくれぇーー…!!


祖母がいなくなってから、五年
僕は初めて
杖の取っ手にぬかづいて
声無き叫びで
夜の静寂しじまが震えるように  
(あちらの世界)の祖母を、呼ぶ  







自由詩 形見の杖   Copyright 服部 剛 2014-08-14 19:51:58縦
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