さるすべり
はるな


そうだなあ。壊すなら街が良いね。とくべつ硬いやつ、と、言ったとき、あなたはもうわたしを愛さないと決めていた。美しいは残酷だから、わたしたちは生きていける。もうずいぶん長いこと言葉に身を埋めて、はっと気づくのだ。意味と音に同じ色のりぼんでしるしをつけて、ほどいてつけ直して、また結び。混ざらないように慎重に。重たいりぼんの束で身動きがとれなくなって、(はっと気づくのだ)。

この街にはさるすべりの木がない。だから今年のそれがいつ咲いて、散ったのか、わたしにはわからない。かわりに苔桃が大通りに沿ってびっしりと実をつけていた。幹からこぼれてみじめに踏みしだかれる紅。わたしは髪を切って、うなじは久々に青空を(あるいは曇天を、雨を)見た。こんなふうに、そうか、あれはもう三年まえのことだ。

あのとき、あなたはもうわたしを愛さないと決めていた。わかる、というのはなんと美しいことだろう。わたしは生きていける。




散文(批評随筆小説等) さるすべり Copyright はるな 2014-07-25 14:05:45
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