池袋 二十歳
馬野ミキ

雑司が谷のアパートを追い出された当時二十歳の俺は
池袋の東口で路上生活をしていた
今のタクシー乗り場付近には花壇と
その花壇を取り囲むように丁度ルンペンたち横になれるコンクリートのベンチがあった
俺は二十歳になったからには何かやらなくてはと池袋を裸足で歩いていた
もちろん恥ずかしい
だがこの恥ずかしさを乗り越えなければならないというよく分からない義務感のようなものがあった
そして猫を連れていた
裸足で猫を連れてギターを持つ青年か 今思うと我ながら感慨深いというか痛い
池袋の路上で数時間歌えば3000円とか5000円にはなったので生活の苦しみはなかった
稼いだお金を毎日銀行に貯金していた 
余分な金を持っていることは外で眠る者にとって危険だ
ちょっと目を離した数分間にラジオを盗まれたことがある
性欲は使い始めた個室ビデオでこなした
あの頃の個室ビデオは今ほどのラインナップやサービスはなかったな
今ではシャワールームが完備されタオルケットの貸し出しも行われている
きついのは雨の日だ
足が濡れると切なくなる
朝が来て駅のシャッターが開くと皆池袋駅になだれこんだが
俺は駅で寝るのは好きではなかった

東口と西口の路上生活者が対立していたり
エサ場(マクドナルドなどで廃棄処分になったもの)の取り合いをめぐるささやかな抗争などがあった
ビニール傘を右手ににらみを効かせるような・・
だが俺は若かったので可愛がられた
俺が普段歌っている場所に他のストリートミュージシャンが歌いに来ると(今の喫煙コーナーの辺りか)
そこはあんちゃんの場所だからどけ!と勝手に場所取りしてくれるような。
いいんですよ誰の場所でもないからと俺が間に入ると
他のおっさんに「ああいうやさしさは受け入れておくものだぞ」と小声でいわれたのを今でも覚えている。

とにかく暇だったので歩いた
猫は水商売の女に盗まれていた
朝が来るまでいけるところまで歩いた
建物があるとその建物を避けて通らないといけないのが当時の疑問だった
道がなめられている気がした
なぜ無断で入ってはいけない地上があるのか
見知らぬ公園のすべり台にたたずで夜空を見上げる
深夜徘徊は夜を支配している気がする。


自由詩 池袋 二十歳 Copyright 馬野ミキ 2014-07-20 20:06:46
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