ポんた
アンドリュウ

その夫婦が引き返してこなかったら
生まれたばかりのポんたはたぶん処分されてた

これもなんかの縁やろ そういって腹の出たオジサンは笑った
若くて綺麗な女の人は 良い匂いのする胸元にポんたを抱き上げた

これがパパとママとの出会いだった

年の離れた夫婦だった
怒鳴り声は大きいけど優しいパパと
パパより大きいけど無口なママ

二人には子供がなかったから
ポんたたちが子供だった

全部で11匹の子沢山だった
拾われたり、迷い込んだりした子もいた

夢のように六年が過ぎた
ポんたたちは人間の子のように叱られほめられ愛された
にこにこ笑いながら一日に12回も散歩に行った
ポんたはよくほえたので玄関の横を任された



賑やかで楽しい毎日が続いた



今年の春
ママが病気になった
大きな病院に入院した


おそろしい病気だった
パパは看病に明け暮れた

もう散歩どころではなくなった
ポんたは一生懸命ほえた


あんなに陽気だったパパは
いつも涙ぐんでいた

ポんたは二人のいない家を守ろうと
一生懸命ほえた
昼となく夜となく吠えつづけた

一度帰ってきて皆を一匹づつ抱きしめたあと
ママの匂いは消えた
その日は帰ってきたパパと一緒にみんなで鳴いた

パパが胸に抱いてきた小さな白い箱は
かすかにママの匂いがした
順番にそのにおいをかいだ


一匹また一匹と兄弟はもらわれていった
ラブラドールのジョンもホックステリアのメリーも
いなくなった ポんたは雑種だったしよく吠えたので
誰からももらわれなかった


ママがいなくなって一か月
ようやくパパも少し笑うようになった


二日前に大きなトラックがきて
家の中の家具を全部運び出した

昨日 いつもは遠目にしか挨拶をかわさない
前の家のご主人がきてパパと長話をしてた
話の中でパパは何度も頭を下げまた涙ぐんだりしてた


今日 ポんたたち五匹はそれぞれ檻に入れられ
トラックの荷台に載せられた

どこにいくのか
ポんたはしらない


自由詩 ポんた Copyright アンドリュウ 2014-06-21 21:06:10
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