羽根
アンドリュウ

妻が押入れの奥の
古びた柳行李を出して
何かを整理している
その後ろ姿が丸く凋んでみえて
少し不憫に感じた

これはもういらないわね
そんな事を呟きながら
妻が手にしているのは
見覚えのある一対のはねで
ところどころ変色して色が変わっていた

私は何か言いかけて
言葉に詰まった
あのはねは長男が生まれた時
しばらくは飛ぶ事は諦めようと
祖父の形見の柳行李にしまったのだ

それから次男が生まれ
父が死に娘がうまれ
私は荷物を運ぶロバのように
黙々と働いてきた
最初は考えないようにしていた
空の事も柳行李にしまった
はねの事もすっかり忘れてしまっていた

妻はしばらくはねの感触を愉しんで
それを棄ててもいいかときいた
私はおどけた顔で軽くうなずいてわらった
近くでよく見れば顔は歪んでいたはずさ

犬と二人でゴミ置き場に並ぶ
沢山のごみの袋を見ていた
右から三番目の袋から
私のはねが少し飛び出していた
手とってからだに付けてみたい
そんな気もしたけど
もう飛べない事は嫌になるほど自覚していた

やがてゴミ収集車が来て
あっけないほど簡単に
はねはタンクの中に
他のごみと一緒にローラーで
粉砕され詰め込まれていった

ベキベキとはねの折れる音が
耳に届いた時
微かな痛みを肩に感じた

道の向こうには夕陽があり
ゴミ収集車はそれに向かって走リ去った
頬をつたう一筋の涙は
哀しかった訳じゃない

ただ 夕陽が眩しかった

だけさ…


自由詩 羽根 Copyright アンドリュウ 2014-06-19 20:57:11
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