息のこと
はるな

庭で宝籤が吠えると、赤ん坊はゆるめていたこぶしにすこし力をいれる。両腕をま上にあげたかたちで―頭がおおきくてまだ手がまわらない―眠っている花。
ゴムでできたボールを奥歯のもうすこし向こう側で噛んでいるような心地がする。わたしは久しぶりに、持っている二十枚の爪に色を塗った。

赤ん坊というのは、思っているのとはずい分ちがう。愛とか、出産とか、成長とかは、いつも思っているのとはずい分ちがって、良いものだった。なんだか、想像しているよりも、それらは客観的なものだと思った、それはたぶん、(いつも)、息を吐くのと似ている。吐いたと思ったら吸わなければならない、吸ったと思ったら吐かずにはいられない、そういうような、でも、どうしてそうしなければならないんだろう?そうしなければならない理由はないのに。どうして生きていなければならないんだろう?長いこと思っていた、ばくぜんと、子どもができたら違うのかなと思っていた。でも、今も感じている。どうして生きていなければならないんだろう?わたしも、赤ん坊も、庭で吠えているかわいい犬も。そうしなければならない理由はないのに、生きているな、と思うことは、とても幸福で、疑問が幸福を連れてくるのだとは、予想していなかった。


散文(批評随筆小説等) 息のこと Copyright はるな 2014-05-30 17:45:47
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