おしゃべり自転車折り畳み
松岡宮

フラジールの札を括りつけられて
初めてのフライトは南の街へ
だけどギヤギヤ
荷物室で捻挫してしまったらしい折り畳み自転車が
袋から取り出された瞬間
ひやあ あんた
突然にしゃべりはじめた

わたしはその自転車と長い間つきあってきたけれど
しゃべるのを聞くのは初めてだった

ひやあ あんた
僕さ 寝かされて移動するのは好きじゃないんだ
気を付けてくれよな
ひやあ あついぜ
南国のアスファルトに溶けそうな声で
確かにわたしに向かってそう言ったのは
折り畳み自転車
畳みかける自転車
ねえ
ねえ
ねえ 
O型だろう 君 
もっと僕を 丁寧に扱ってくれよな

はいはいと返事をしているうちに
自転車を名前で呼びたくなった
ちゃりちゃん で どうかな
 いやだよ そのままじゃないか
ちゃりたん は どうかな
 いやだよ 馴れ馴れしいじゃないか
では ちゃりさん は どうですか

 それで いい

ちゃりさん 朝ですよ
突然のスコールの中
ひやあ あめだ
こんな日に働かせるの やめてくれよな
びしょ濡れになりながら
ちゃりさんとわたしがやっとたどり着いたのは
帰りの空港
今度はフラジールの札を目立つようにつけて

ええ 寝かさないで 立てたままで移動するようにお願いします

そうして今度は捻挫することもなく無事に戻ってきた折り畳み自転車
京急蒲田の駅で組み立てて
街を走り出したら
もうしゃべらなくなってしまったのね
ちゃりさん
ちゃりさん
もう返事をしなくなってしまったのね

 O型だろう 君 もっと僕を

そんな言葉を思い出して
優しく 優しく
これからは扱ってあげるつもり
ひやあ あついね
見てくださいよ
ギヤギヤ
東京ももう南国みたいな陽射しになりましたよ


自由詩 おしゃべり自転車折り畳み Copyright 松岡宮 2014-05-19 21:23:20
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