ハリケーン~崩壊の序曲~ファウスト
Terry
十二月、バスケットボール試合の選手それぞれの初期配置が決まった。ディフェンス側のコートに達夫のクラスメート、オフェンス側のコートに相手チームクラスメートが敷き詰められていた。
砂上で戦いの火蓋が切られた。
ジャンプボールは、やはり長介がボールを仲間へ取り込んだ。安田から浅香へとボールがパスされたが、相手チームのバスケットボール部員、板倉君がボールへめがけて猛烈なダッシュをしかけた。浅香は恐れひるみボールを相手陣営へ転がした。
達夫はサッカーボールを追いかけるかのように、コートを斜め線上に走った。その足に板倉君も見過ごすかのように軽く後ろから追いかけた。エリア外へボールが転ぶと相手ボールになる。足で止めるようなボールを達夫は手で止めてしまった。板倉君には達夫の「巧さ」は洩れていない。
?浅香ー俺たちのプレーを?
ここで達夫は閃いた---初心者の演技をして浅香をいたぶらせ、一種のお笑い性をとろうと---俯き堪えているときに彼女から、
「本庄君頑張ってー」
と応援され、達夫はポーカーフェイスでそれに応えた。
?僕のことをあのコートでそう想っていたのか。
このポイントは必ず取ってみせるよ?
俯いている際に達夫は仮面を被っていた。ゆっくりと立ち上がり、相手チームの板倉君から大丈夫? と心配された。初心者が初めてバスケットボールを手にする、そんなドリブルで板倉君を抜こうとして板倉君は進行をディフェンスする位置に動いた。達夫と板倉君は両諾した。
達夫は、板倉君を合わせ、その後ろでディフェンスしているある関係で昔からよく知っているバスケット部員の正ちゃん、それと味方チームの浅香をいたぶる光景の三点を確認しながら演技ドリブルをしていた。そして、長介がこちらへ来るのを見かけた。
相手チームの二人を、どんなディフェンスをしても得点源となる位置に着かせたので、板倉君と両諾し達夫は笑みを浮かべた。達夫はバックロールターンシュートをするためにもう板倉君にはディフェンスが効かなかった。板倉君は、
「おいおい」
救援を正ちゃんに呼びかけた。板倉君の陰に潜んでいた正ちゃんが、ものすごい加速度でディフェンスをしにきた。そのディフェンスはただの焦りであったため、達夫は皇帝の鋭い眼光で、
?危ない?
正ちゃんを横に吹っ飛ばした。
ゴールを確認してから、板倉君のディフェンスが来るだろうと確かめると、板倉君は救援を呼んでいた。その援護者が殴り掛かってきそうな形相であり、達夫は自分の巧さを口先で、
「ばれた」
と言い、
?こ、これはバスケではない。戦形を立て直そう?
ボールを両手で持ち長介にパスを送ろうかと振り向いた。だが! そんな時間を経過しても誰も浅香をいたぶっていた。ゴールは遠い。
正ちゃんから、
「渡せ、渡せ」
ディフェンスを受け、じりじりと正ちゃんの両足が達夫の正面に来るためのピボット作戦をとった。クラスの男子であるぶーちが、
「お前らいつまでやっとる」
「試合中やぞ」
援護していた。滑稽なじりじりさで見事に作戦をこなした。板倉君がシュートを止めにくるが、腕と顎を斜め横に上げ、またもやマークマン板倉がその方向へ吹っ飛んだ。ゴールへのラインが開くのを待ち、得点を取る剣道の如く、そんな待ち構えであった。
?Go?
ゼロのスピードからシュートの体勢へ入る。間に正ちゃんから、
「てめー」
左腕を回し叩き付けられるファールをされ、最後のステップをする瞬間に審判の笛が鳴った。フェアなスタンスをとる達夫はシュートを停止して、反対側の審判の方を振り返り着地した。達夫は自分がトラベリングで笛が鳴ったと思っていた。
バスケットボールの公式試合は初めてで、
?バスケ部員はああいう動きをするんだ?
と思い、正ちゃんに演技も含めて、
「すみませんでした」
と弁解すると、正ちゃんは渡されようとしているボールを叩き返した。クラスの女子達は、
「うわー、本庄君が」
どよめいていたがその反面、
「知らないんじゃないの?」
との声も挙っていた。
男子は、
「時間稼いどったんやぞ」
弁護をしてくれた。
正ちゃんは、
?そうやったのか?
達夫に手で謝った。
達夫がシュートをやめた際に女子達は、
「やっぱり打てない」
との声があった---見せてしまったのだ。彼女に。あのコートで。ドリブルをしながらその下校通路を眺めると彼女がいて、わざとシュートを外し八百長をした---この試合は一体どうなるのか、女子達も責任をわずかならずとらされている、いや、何が隠されているのか。