箱庭にて 序章 (未完成)
黒ヱ

※編集途中であり、未完成です



発見


痩せ細った黒衣の子
「あらあら、これは一体どうしたことか」
 その少年は何か面白いものを見つけたようで、内心では湧き上がる泉水のように高揚していたが、何を思ったか平然なふうをしている。

 そこには元々何もなかったのだが、ある日突然、徒に気まぐれが重なり偶然が偶然を呼んで至るものが産まれていった。それらは、これまた奇妙なことにその子が否応無く思い浮かべたものという点でのみ共通している。
重ねて言うが、ここには何もなかった。何もなかったのだ。それが常だった。
いつからか、(その「いつ」かとは、その子が突然に思考を思い巡らせた偶然のあの日なのだが)ありとあらゆるものが溢れかえった。
 その子が見つけたものは銀の板だった。正確には、そこに映えたその子自身であるがそんなことはもちろん知る由もなく、何もかもが新鮮であった。その子は分からなかった。何故、自分の心の臓が高く脈打ったのかを。
その子はすぐに踵を返し木立まで駆け、根元に座り込んだ。自分自身に何が起こったのだろう。今さっき、何を見たのだろう。その子は困惑し、また高揚した。そうしながら、何度も何度も飽くる事なく先ほどの刹那を思い返しては思考した。


行動


痩せ細った黒衣の少年
「これはこれは!奇想天外な源だ!」
 記憶が薄れ始めた頃、少年はもう一度銀の板の前に立とうと思った。(少年の中では、ある一種の出会いとまで昇華しており、会いに行く心持ちだった)
少年は木立に手をかけ、ゆっくりとそちらの方を覗こうとした。この瞬間少年の中は、天の中心で燃えるものを飲み込んだかの様に熱を生み出していた。それと同時に、初めて舐める鉄の端の様な味を口で感じ、また何故今までここに到らなかったかと新たな思考が駆け巡った。
 そして、見た。眼が合ったかのような気がした。
瞬間、少年は身を翻し木立に隠れた。根元に頭だけを隠し、少年は今起こった事象を熱を増しながら思い返した。
以前とはやや形が違う気がしていた。(だが違うものがあったとは思わなかったようで、あの時見て何度も想い焦がせたそれ自身ではないとは疑わなかった)
これは大変なことである。また新たに想いあぐねなければいけない。少年は初めて高揚と共に焦りを覚えた。しかし好奇の思いの方が埋め尽くしていたので、少年は微塵も暗い気持ちは灯さなかった。
これを一度目とし、同じことは何度か繰り返せた。


会得


痩せ細った黒衣の青年
「あいや! せめて一口だけでも!」
 黒衣から伸びる白い手足が長く感じ始めた。そんな頃になって、その青年は先があるのを漠然と感じていた。と言うよりも、今のままでは満足に至らない事に無意識で感じていたのだった。しかし青年は先を想像することが出来なかった。ただ一つ、どうしても焦心が勝り目の前に木立の陰が見えてしまう事が容易に考えつくからである。
ふと気がつくと、二つの飛び交う小さな影が見えた。顔を上げると仲睦まじげな蒼色の鳥が二羽、歌いながら飛んでいた。その歌を吹くもの達に青年は妬ましさを覚えたが、転じて、これは何かの導きになると発想した。
青年はその思いつきに立ち上がり思考を止めまいと発熱をした。どうすればいい。こいつらは何をしているのか。また、何を経て至っているのか。青年の思念は何度も流転しては渦を増し、色を濃くしては積み上げていった。
 何度も昇るものが沈むものとなり、また新たな昇るものと声を交わした後、青年はある見解に至ることが出来た。青年はその明かりにとても満足感を得た。そして同時に今までは知らない、その体から溶岩が吹き出るかの如く衝動した。
青年は向き合う事にした。


試練


痩せ細った黒衣の青年」
「とても美しく とても恐ろしいもの」
 青年は銀の板と向き合ってみる事にした。目の前に立ってみる事にした。それにはまず、己の足枷になっているのはこの木立である事は明白だった。
ここで青年は勇ましい結論に至っていた。この足枷は己の前だけではなく、向こう側にも存在しているのである。ずっと見ていたのだから、それを把握していた。こちらの邪魔なものを無くすと同時にあちら側のも晴らしてやろうと思ったのだ。内心ではせっかくここまでの思い立ちに、向こうにも隠れることの出来ない状況にしようと思ったのである。それは、とてもとても興醒めであったから。
 そうと決まれば行動するは易し。一気に目の前の木立を消してみせた。そして駆け出した。次は、向こうの木立だ。
そこで、青年の目には驚くべき光景が飛び込んできた。なんと、向こう側の木立も同時に消え失せていき、それだけでなく青年と同じようにこちらに駆け出してくるではないか。青年は驚き慄いたが、速度を乗せた足は止まらず駆けそのまま止まろうとし、それの前に倒れこむ形で静止した。
 青年は突っ伏したまま、今の万物流転の現象を思っていた。(ところが青年の思考を超越した今の現象により、すでに白紙の辞典だった)何を考えても答えが出ない。完全に予測外のことが起こっている。青年のふやけた思考は混乱に混乱を重ねた。ただ分かることは、今この時に目の前に立たれているという事だけだ。きっと見下ろされてるに違いないので、羞恥がこみ上げてきた。ほんの刹那で見やる事が出来るのだが、首が上がらない。まるで鉛のようだった。
 固まり続けて己は石であったかと錯覚する程の時間を経た後、青年はほんの一寸、目線を上へ泳がせた。するとどうであろう。二つの手が見えた。まさしく青年と同じ様に手を付いているのが見えた。青年は歯を食いしばった。また羞恥が昇ってきたのである。同じ目線まで下ろされ見つめられてると思った。
もうこれ以上はない。青年は羞恥の限界という意味ではそう思った。それならばと、青年は捨て身にも似た思考が湧き、どうとでもなればいいと思えた。
刹那、青年は顔を驚くべき速度で上げた。


驚嘆


痩せ細った黒衣の青年





散文(批評随筆小説等) 箱庭にて 序章 (未完成) Copyright 黒ヱ 2014-04-17 20:04:59
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