白いちり紙
服部 剛

片方の手を取って
九十歳のきくさんと
介護の青年は
デイサービスの廊下を
ゆっくり、歩く。

きくさんは、皺の寄った右の拳で
くしゃくしゃなちり紙を
握り締めている。  

「それ、ごみ箱に捨てときましょうか?」
「駄目!これには思い出が詰まっているの…」
「え、どんな思い出?」
「それは言えませんっ」

かたくななきくさんの右手をほどけぬまま
二人三脚の青年は、部屋に入り  
きくさんの椅子までゆっくり、歩く。  

翌日、お風呂介助で裸になった
きくさんはやっぱり思い出を、握っていた。

湯煙りの中、右の拳から覗く
きくさんの白いちり紙には
なにか、宿っているらしい。  







自由詩 白いちり紙 Copyright 服部 剛 2014-02-27 23:30:04縦
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