手は塞がせない
くみ

『手は塞がせない』



いつもは1人でさっさと買い物をしてしまうから今日は久し振りの2人での買い物。

恋人の両手は牛乳や野菜が入ってる重い袋で塞がっている。
片方持つよと言ったのに、恋人はこういう時になると何故か子供みたいに強がる。

「これくらい大丈夫」

でも手が少しブルブル震えてて辛そうなのは見逃さなかった。

この強がり

「片方空かないと手が繋げないでしょ?」

こう言うと顔を少し背けて照れた様に『重いぞ』と言いつつ袋を1つ手渡してくれる。

確かにずっしり重かったけど、あえてそれは言わない事にする。

恋人の片方の手は袋が重すぎたらしく赤い跡が付いていたので、優しく労る様にそっと指を滑り込ませる。

少し冷たくなったその手にゆっくりと体温を戻してあげる。

絶対に手は塞がせないよ。

それは2人の約束事。

落ち着いたら歩きながら豆乳でも飲んで帰ろうね。




散文(批評随筆小説等) 手は塞がせない Copyright くみ 2014-01-19 00:34:42
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