あの満月に帰りたい
松岡宮

幼児期の描画の発達は
殴り描きから始まって
円を描き 
四角形を描き 
それから三角形を描けるようになるという

ひとが描く最初の図形、それは、円。

「止まれ」と書かれた道路標識をすり抜け
やっぱりここではないかもしれない
重たいリュックを背負いながら長い坂道を登るとき
顔を上げれば満月が
外周に虹をまとい輝いている
あれはなぜ 懐かしい
円形だ
たどたどしいクレヨンで描かれたような
円形を 夜空に
見つけたのだった

テールランプの赤が駆け抜ける
茂みを揺らして駆け抜ける
三角形や四角形で出来た地図はあまりに難しく
ここは歩いてはいけない道だったのかもしれないと
今さら気づく崖の道
「徐行」と書かれた道路標識をすり抜け
ガードレールに腰をかけて
わたしはもうだめかもしれない
重たいリュックはここに捨ててゆく
やっぱりここにいてはいけないのかもしれない
顔を上げれば満月が穏やかにわたしの影とつながっている
それはただ 懐かしい
円形だ
空はただ 懐かしい
空はすべてが円形だ
ああ
あれがわたしの故郷かもしれない
わたしのクレヨンが最初に描いた円形の故郷かもしれない
やっぱりここにいてはいけないのかもしれない
あの満月に帰りたい


自由詩 あの満月に帰りたい Copyright 松岡宮 2013-12-17 23:36:07
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