冬がとどく
真夜中のようにしずかに
誰にも 気づかれることの
ないように
技師のつめたい指をして
冬は、いつもきびしさで やってくる
翳ろう冬空は 鈍色
ねずみが ねずみ色
空色を失った 空
力あるものは、いつもさらなる権力を欲するように
枯葉の従者たちが舞うなか 冬の
北風の叫び声をあげる
秋をさがせば、
過ぎ去ったのと、何もないのとは同じこと
ファウストのじいさんの言葉がよみがえり、
幻覚がみたくて
時計の針をはずし
魂をあずけた 許婚を想う
冬は、冬の夜ならば なおさら
思い出の/す ためにある
千代の冬
暖炉のぬくもりに
記憶の火の粉をちらし
雪の野辺に立つ
あの時の少女を
焦がる
粉砂糖のような雪でした
林檎のほほ
十七歳
時に限りなどありようもなく
ただ、人の 命の
囚われが身