花の御心を生きるひと  
服部 剛

テレビを点けると、美智子妃殿下が  
カメラのレンズの向こう側にいる  
一人ひとりの国民をみつめ     
静かな深いまなざしで  
語りかけていた   

「私は子供の頃、絵本に親しみ  
 それは私の根となり、翼となりました」  

被災地の子供がはしゃぐ集会所の棚には  
美智子様が贈った何冊もの絵本が  
きれいに並んでいた   

震災直後に訪れた  
体育館の避難所や仮設住宅で  
あるおじさんは両手をあわせ、涙を零し  
あるお婆さんは流された家の庭に
咲いた花を手渡した

花の姿で  
花の心で  
哀しむ人に身を屈め  
まなざしをそそがれる美智子様は  
これからも人と人の間に  
透きとおった橋を無数に架けるのでしょう  

天皇陛下に片腕を支えられ      
飛行機の入口へと続く階段で  
歩幅をあわせ  
ゆっくり上る後ろ姿を  
見送る僕は、テレビを消した後  

人の心の根となるような  
夢追う人の翼となるような  
言の葉を紡ぐ人となれるよう――  
只、深々と頭を垂れて
テレビの前で、黙礼をした  










自由詩 花の御心を生きるひと   Copyright 服部 剛 2013-11-14 19:57:46縦
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