手紙
くみ

『手紙』


(手紙なんて久しぶりだな)

自分が最後に手紙を書いたのはいつだろうか?
今でも暑中見舞や正月の葉書など形式的な物は一応手書きで書いたりもするが、今や殆どがメールでのやり取りが半ば常識化している。
メールのやり取りでも心に残った文章は幾らでもあるし、現にそういった類のメールはちゃんと整理して保存してある。
だが、本気で大事な人に心を込めて紙に書いた物はそれをも上回る。

ふと高校時代を思い出す。
それこそまだ携帯を持っている人間がクラスに何人かの時代で、持っていてもあまり使いこなせていなかった様な気がした。
結局は手書きの物がまだ当たり前で、自分もよく授業中、小さな紙に恋人へ手紙を書いていた記憶がある。
恋人が可愛い色のメモ帳に綺麗だけど筆圧が薄く、しかも小さい文字で書いた返事の手紙はまだ幾つか残っていて、誕生日やクリスマスなど行事の時にはちゃんとした文面で手紙をやり取りしていたのも色褪せない良い思い出だ。

それらの紙類は大事な思い出を詰める為の空き缶に大事に保管してある。中には恋人と観に行った映画の半券やお揃いで買ったストラップ、恋人が作ってくれた押し花の栞なども一緒だ。

しかし、改めて恋人に手紙なんて書く前から何だか照れてしまい苦笑した。

『繊細で綺麗な字がなんか好き』

恋人が何気無く言った一言が忘れられない。
字は昔から結構綺麗な方なのではないかと自分では思っていたし、確かに周りからもそう言われる事が多かった。

ならば期待に沿うようにと恋人が好きな色の薄い青緑色の便箋に、まずは恋人の名を記した。
しかし、ペンを持って紙に書こうとすればする程に文字は歪んでしまい、書いた文章までもが上手く伝わらない。

気が付くとゴミ箱には何枚も書き損じた手紙を放り投げている自分が居る。

(アイツが貰って嬉しい手紙……か)

相手の期待に沿うようにと変に格好付けるから書けないのではないかと思い、変に気負うのは止めてみた。自分の想っている事だけを一字一字、丁寧に書いていく。

そう思うと、素直に自分の秘めた想いや意志を伝える恋文が出来上がってきた。やはり自分の頭で考え、自分の手で書いた手紙を見ると気恥ずかしいが、心は暖かい。
これを見た恋人は、自分の秘めた想いを分かってくれるだろうか?

言葉は不器用かもしれないし、恋文と呼ぶには粗末な物かもしれない。
しかし自分の想いは昔と何も変わってはいないのだ。


素直な言葉を紡いで書いた久しぶりの恋文。
恋人はどんな顔をしてそれを読むのだろうか?


散文(批評随筆小説等) 手紙 Copyright くみ 2013-10-25 21:54:40
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