視線
くみ

『視線』


最近雨ばかり続いて気分的に憂鬱だったが、今日は目の覚める様な青空で天気がいい。少し風はあったが、開け放つ窓から差し込む日差しが眩しく自分は思わず目を細めてしまった。洗濯物も溜まっていたがこの調子なら丸1日干しておけばすっかり乾いてくれるだろう。

ベランダから部屋に戻ると、いつも聴いてる曲を流しっぱなしにしながら、珈琲を入れる。ヤカンから沸騰した湯を静かにコーヒーメーカーに注いだ。今日は2人分の量だ。お揃いのマグカップは自分の趣味で揃えてしまったので色も柄も少し可愛すぎるかなと前から気にはしていたが、恋人がこれでいいよと言うからそのままにしている。逆に向こうの家で飲むカップは恋人の趣味である。

「いい匂いする」

「もうすぐ出来るから、もう少し待っててね」

恋人が座っている方向に目をやると、読んでた本から上げられた恋人の目と顔が優しくうんと自分に向かって頷く。その瞳と顔に自分は弱い。この瞳は何度見ても大好きだったし、じっと見つめらればドキドキしてしまう。たぶん今も自分の顔は赤くなってるだろう。

俺は出来た珈琲をカップに注いだ。恋人の大好きな銘柄の珈琲はとってもいい匂いだし、味もなかなかなのだ。いつも思うのだが、お揃いのカップを出すのは少し気恥ずかしい気もしないではない。今更何考えてるんだと思いながらも平然とした顔を繕って珈琲の入ったカップを恋人の目の前に差し出す。
行儀が悪いと言われるかもしれないが、一口二口程すすりながら恋人の横に座る、正面に座らないのは恋人の顔がまともに見れないからだ。
またさっきみたいに、誠実で優しい視線で見られてしまったら、自分はきっと耐えられないと確信している。
そうでなくても恋人に対する色々な感情から自分の胸が一杯になってしまい泣き出しそうに…切なくなってしまう。
もしそんな事になってしまったら、ベッドに戻って布団を頭から被ってくるまり暫く出て来ないだろう。
わざと視線は珈琲の入ったカップに落としたままにしておく。再び二口位珈琲をすすった。

相手に気がつかれないようにそっと視線だけを上げ横を見ようとすると、同じ様なタイミングで恋人も珈琲を飲みながら平然とした顔でこちらを見ている。目の前にあるカップを挟んで視線が絡んだ。
2.3回瞬きをしたのも見る限り同じタイミングだったと思う。視線を外せなかった自分はそのまま恋人の優しくふっと笑う瞳にやられてしまった。
やっぱり恥ずかしくなってぱちぱちと瞬きを繰り返して混乱してしまう。
その混乱を打ち消したくて思わずまだ熱かった珈琲を一口勢いよく飲んだ。喉が一瞬熱く感じたけど、やっぱり自分の顔の方がずっと熱く、さっきよりも赤くなってたのに違いない。

「ん?顔が赤い?」

「なっ…なんでもない」

自分の顔を見ながらくすくすと笑う恋人。心の中が見抜かれてしまったかとちょっと悔しくて、顔が少し歪んでしまう。
今流れてる音楽も、まるで今の自分の気持ちを表しているような曲だった。

「今日はこれからどうする?」

「とりあえず布団にくるまりたい」

本当に今日は秋晴れだ。
布団にくるまった後は2人で何処に行こうか?


散文(批評随筆小説等) 視線 Copyright くみ 2013-10-17 15:02:42
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