まほろばの声  
服部 剛

在りし日の作家が住んでいた山荘に入り  
籐椅子に腰を下ろした旅人は瞳を閉じる。  

傍らの蓄音機から流れる古びたショパン 
のバラードと窓外で奏でる晩夏の蝉のコ
ーラスの二重奏に耳を澄ます――開け放
たれた窓から忍び寄る風の霊気は彼の首
をそうっと撫で、蝉等のしきりに鳴く声 
を翻訳しようと思い立った彼は、机上に
開いた日記帳の空白に、言葉を綴る。 


 汝の生を炎の如く、全うせよ――  







自由詩 まほろばの声   Copyright 服部 剛 2013-09-10 21:24:01
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