ふたり
AquArium

何度描いた場所だろう
震えて息が詰まりそうな
ドアの前
ここで最後に見た景色が
フラッシュバック
一瞬だけ目を、閉じた

何食わぬ顔で
キッチンに立つ背を
瞬きもできずに見つめながら
部屋中の空気を吸い込み
配置の変わったソファーで
息を、吐いた

知らない時間が
どれだけ流れていたのか
共有できなかった大事なことを
ひとつずつ
ひとつずつ
紡いでいく

あたしの心の奥にある
ほんの少しの尖った部分に
届くのを躊躇っているような
核心の束たち
些細な言葉尻にさえ
神経が、鳴いていた

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

どうしたって近づけなかった
最寄り駅
徒歩2分のスーパー
右折した先にある
あなたのマンション
街のシンボル、犬の像


東横線を待つ駅のホーム
あなたの横顔
揺れてよろけた
あたしを笑って
改札を出る
涙が滲んだ、自由が丘


些細なやり取りを
思い出させる
口癖も歩く早さも
変わらないことが
余計にギュウっと
胸を締め付けた

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

気づかれないように
何度も抓った頬
あたしではない脈が
聞こえる奇跡に
ただただ
ありがとう、と呟いた

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

新しい朝を迎えたかった
少し重たい身体に
飲み込んでしまった言葉を
弔う間もなく
靴を履いて
ぼんやりと、微笑んだ

足早に向かう駅までの道のり
また出会えると
そう強く刻んで
一度も振り返らず
電車に乗り込んだ



もらった炭酸水の泡だけが、口の中ではじけていた


自由詩 ふたり Copyright AquArium 2013-09-01 20:51:19
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