茹卵とオリブの腐ったサラダ
高濱

魚が鳥を喰い神父の祈念は
   向日葵畑に黒い映像機を置く  
      襤褸の巡礼の渦巻く顔が振返り  
        空洞が皺嗄れて喃語を喋る
      地平は陰鬱な青の向うに
   巨躯の天使達を走らせ空の眼球-蝕媒
鏡像の断綴のイマーゴは 
   四肢の再発見に拠り統合される自己を 
      曖昧な現象の綜合体として         
        他者を通じて自者を察知し 
      自己像を歪曲する狂気の始原は   
   妄想の型式化に拠って固着する  
世界の検閲者、存在する
   仮想現実の原則は二つのリビドー
      即ち卵殻の外向的力動と   
        内向的力動を均衡せしめ
      球体卵の世界面は裂開し   
   他者として訪れる種種の欲動は契機を 
自己の内在はナルシス的
   攻撃衝動としての自死を指向して
      作働するイドの破壊衝動は 
   《私》の形象を原初の嬰児の    
未完成へと絶えず遡及する  
  一粒の種子は    
    葡萄樹の発端に稔り    
      眼球の様に黒い皮膜の果肉は
       胚の胎児を包含する未発達の
      円錐形の砂時計へ閉込めた
    巻貝の殻と蝶形、七面鳥の鉤爪を
  標本箱へ収める 
砂の風景画の二重の隠絵は髑髏と淑女を
  開闢する門扉に磔刑の基督教徒達に
    開示し
    変化と宗教の死を告げる通達人の         
      酷薄な電報を打つ手首を
       空中に指標として懸架する        
運命は局在し、気紛れに人間を嘲弄する
       行着く時の流れは果てなる           
      場所をあらゆる試論に
    セミネールの受講人達へ掲示するが
    椅子の下
  螺旋の脚は縺れ合いひとつの
欲動機関となり自動機械人形の劇装置は
  彌散曲の伽藍堂に
    翻る洋蘭と青藍の唐菖蒲を
      尺度に静止させ 
       純粋鏡像の胎児の卵膜 
    楕円の卓子並ぶフロアに垂下する   
       紡錘形の渦巻く巡礼者
      夜と昼の挟間に郵便夫の   
    ベルを鳴らす手套が
影を残して消える八月
    ああ、
     あの火事の顛末は《現在形》より
      忘却された瓦礫降る《黒の雨》


自由詩 茹卵とオリブの腐ったサラダ Copyright 高濱 2013-08-04 04:22:17縦
notebook Home 戻る  過去 未来