ショッピングモール
片野晃司

 ほら、たべものがよかったのかなわたし、おいしくできてるからわたし、ほら、軟骨はつやつやとしてみずみずしく、膝はつやつやとして夜に半月映るし、ほら、かわいい服とかかわいい靴とか、化粧品たち、小物たち、ほら、彩りよく盛り付けて、わたし今かなり臓器の具合よくてね、骨の髄からどきどきしてきてね、もっと素肌見せたいよね、粘膜つやつやだしね、ほら、もうすぐたべられちゃうのかなわたし、ほら、唇から粘膜へぐるりと裏がえしていって、わたしぐるりと裏返していってね、たべごろのそれら飲食店街区画、ほら、はらわたしゃぶられてしまうわたし、まっすぐはいっていくと背骨のうらがわごつごつとあたってね、S字にカーブして両側に肋骨、遊歩道を軸線としてショッピングモール北区画および南区画、ほら、完璧に対称系でしょ、たべられるのもたべるのも。

 あっ、たましいがはいっちゃう。ダミーすなわちマネキン人形にたましいがはいっちゃう。いれかわりたちかわり、春には夏物、夏に秋、秋には冬、冬は春、FRP等の樹脂製であるところのわたし、着せられ、脱がされ、倒され、しまわれ、ひきだされ、あっ、お客さま、そんなに見られたらたべてしまう、あっ、やわらかいお客さまのいちばんやわらかいあたりからたべてしまう、じゅくじゅくとやわらかく湿り気を帯びてしなやかなお客さまの指先でさわられてしまっては、FRP等の樹脂製であるわたし、銀色にコーティングされた硬質のわたし、あっ、お客さまを押し倒しちゃう、あっ、お店にたましいがはいっちゃう。お客さまを排泄したあとは乾燥したFRP等の樹脂製であるところのわたしおよび乾燥した鉄骨およびコンクリート等の建築であるところのショッピングモール服飾店街、朝、シャッターが開き、あっ、やわらかな肉であるところのお客さま、みずみずしい肌であるところのお客さまがふたたび満ちてくる。


 わたしはいまたべられるべきである、性交として
 たべられるためにみずみずしく、生殖として
 ほとばしり微細に交雑する色彩の家畜のように
 わたしはあなたに調理されるべきである。わたしは
 おいしげにくびをかしげてみせることができる(5点)。
 音をたてずに皿のスープになることができる(30点)。
 視線は這いつくばってわたしをねぶるべきである。わたしは
 北区画と南区画を対称に分割する遊歩道を歩くべきである。
 つまりショッピングモール、つまり腸詰めとしての
 お客さま、店内奥の試着室に入るべきである。いますぐに
 ファスナーを開き、たべられやすいように髪を上げ
 なめらかに背骨の裏側で透明なよだれを流しなさい。
 それから館内マップをごらんください。

 ほら、たべものがよかったのかなわたし、襲いかかっていくからわたし、ほら、軟骨はつやつやとしてみずみずしく、膝はつやつやとして夜に半月映るし、ほら、かわいい服とかかわいい靴とか、化粧品たち、小物たち、ほら、あなたを彩りよく盛り付けて、ショッピングモール、床も靴も脚も腰もつやつやでね、店舗デザイン、あちこちでたべたものが姿を変えてわたしになっていってね、ディスプレイ、おいしくてとまらなくてね、ほら、もっと素肌見せてほしいよね、粘膜つやつやだしね、ほら、やっぱりたべちゃうのかなわたし、あなたを唇から粘膜へぐるりと裏がえしていって、たべごろのそれら服飾店街区画、ほら、はらわたしゃぶってしまうわたし、ほら、あなたがやわらかく消化されていって、わたしがすこしあなたになる。ほら、骨をしゃぶって、もうすこしあなたになる。唇から喉、その奥へまっすぐはいっていくと背骨のうらがわごつごつとS字にカーブして両側に肋骨、遊歩道を軸線としてショッピングモール北区画および南区画、ほら、完璧に対称系でしょ、たべられるのもたべるのも。


詩誌ガニメデ55号2012年8月掲載


自由詩 ショッピングモール Copyright 片野晃司 2013-07-20 13:14:56
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