湯船が沖へ、水平線へ
あおば

             130525


窓の外と内とは温度が違う
風の強さも性質もまるで異なる
海と陸との比熱の関係だというが
それを証明するのはどうしたらいいのか
宿題を拡げ中学生の息子は悩んでいたが
スカイタワーからの眺望になれたので
足下の問題が目に入らなくなり
息子の悩みに真剣に向き合わなくなったなと
反省はするのだが・・、

リモコンボタンの配置の変更は認められません
現状のままに凍結しておくのが互いの利益ではないかと思います
親子では歴史認識が異なりますから
話し合っても無駄です
これ以上の談判はお断りいたします
溝は更に深まり
亀裂は周囲に拡がって
今後の予断はつかない

不適切な行動がバランスを狂わし
今にもひっくり返りそうになっている余興の盥船が見える
元アイドル歌手の大女優の幼い頃の歌声を録音してあるテープレコーダーのテープが絡まり解しようがないのだ
こちらもすぐには収拾が収められないから
僕は直ちに救援に向かえない
君、代わりに行ってくれないか
今夕、デートの約束があるから
お断りいたしますとは言ってくれるな
こと人命に関わるのだからな

甘言を尽くしても首を縦に振りそうもない
水平線の彼方は大瀑布となりすべての船は奈落の底に落ちるのだと信じているのだから
余興の盥船が1艘や2艘沈没したって体制に影響あるものか
もう少しすれば見えなくなってしまうのだから
誰も気にしなくなるさ
ジャーナリストの冷静な眼をした君は自己点検チェック表を眺めながらいつまでも黙っている
盥の中の女性が君の元彼女だと知っている僕はそのことを告げるべきかどうか決断が付かないまま
こんがらがったテープを懸命に解そうとしている
次の特番に使えれば大評判になること請け合いだから
どうしても手が離せない




初出 「あなたにパイを投げる人たち」の即興ゴルコンダ(仮)
  http://anapai.com/tanpatsu/goru/
  タイトルは、みずけーさん




自由詩 湯船が沖へ、水平線へ Copyright あおば 2013-05-25 10:55:50
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