まんじゅう事件 
服部 剛

熱血上司は耳をまっ赤にして 
デイサービスのお年寄りを
皆送り終えた、スタッフの中へ 
ふつふつとやって来た。 

「なぜ敬老祝いの紅白まんじゅうを 
 ○○さんに届けないいぃ…!! 」 

認知症のお婆ちゃんを心配して 
残したまんじゅうを渡さなかった 
スタッフ一同は 
頭上にゆげを昇らせる彼の姿に 
しーん…と静まり返った 

仕事の後の更衣室で 
熱血上司は、僕に言う。 

「ハットリさん、どうすりゃみんな 
 気づいてくれるんだろうねぇ… 」 

「うーむ…(たった一個のまんじゅう)が 
 お年寄りにとっては
 お宝なのかもしれませぬなぁ… 
 あぁまんじゅう恐い、まんじゅう怖い…」 

その夜からである。 
僕等スタッフの日常に 
舞台の幕が上がったのは 

毎日々々繰り返す 
車→風呂→飯→便所→ゲーム→車 
という単調な日々の場面に 
ひっそり隠れて後光を放つ 
(たった一個のまんじゅう)を 
僕等が探し始めたのは 








自由詩 まんじゅう事件  Copyright 服部 剛 2013-05-03 19:09:29
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