物語になってしまう
因子

祖母に忘れられる夢をみた。
夢のなかちいさな手を握り
かなしくて泣いていた。
かなしいと言って泣いた。

目がさめて
祖母はもうとっくの昔に私を忘れていることを思い出した。
ほっとした。
安心してまた寝た。



夢で私は悲しかった。
物語は美しい。
物語は美しく私を揺さぶる。
現実の祖母はただちいさく
生きて太っていき
言葉なく
触れることもなく
私はそのひとにかかる金のことを考えるばかりだ。
それでもいつか物語になろう。
このなまなましい無関心は
後でいくらでも物語に仕立てられよう。


最後の食事はロイヤルホストだった。
みな談笑していた。
祖母のための食事で祖母はほとんどそこにいないかのようだった。
帰る道に夏の日差しがへんに明るく
手を振る老女に
手を振りながら
この意味のない食事を
祖母が死んだとき思い出して
きっとみな後悔するのだろうと
そういう未来を広い道路のむこうにみた。
それも物語だ。
ぜんぶ物語になってしまう。


現実は電車に乗って600円くらいかかる先にある。
まだそこで生きているらしい。
覚えていない孫の勝手な物語になりながら
まだ生きている。


自由詩 物語になってしまう Copyright 因子 2013-05-03 18:13:39
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