生き残った夕暮れがいる橙の窓の灯
あおば

                  130428



これが僕の車だよと
ミニ四駆を摘み出し
机の上にひょいと置く
走り出した鈍色のミニ四駆
揺れ動き燃え盛る
激動の山地へとひた走る
オート三輪ではたどり着けないこのカーキ色の大地にも
たくさんの骨が埋まっている
四駆のパワーも吸い取ってしまう歴史の泥深さ
最強力のジープでも越えられない罪深さと
歴史学者達は考えるかも知れないが
運転を指揮する僕は要注意と揶揄される
経験不足の中尉です
気の良いのだけが取り柄の俄将校で
およそ実戦向きとは考えられない痩せ男
それでも、一人でも兵を失いたくないからと
いつでも平静を装って
夕暮れのランタン明々と輝かし
無線の暗合指令を読み解きながら
車の整備にも注意を払い
車軸からの僅かな油漏れをも指摘する
真っ暗で危険な行程に思いを凝らし
陽が差して
ジグザクの山並みを美しく照らすやいなや
先頭を切ってアクセルを踏み込んだ

プルトップを開けるとオレンジ色が溢れたがっている
引っ張ったり押したりするから溢れ出すしかないのだと
年寄り臭く不満を漏らす
引くを習慣化して
引くを規則として
引くを規範とする東北道をひた走るプルトップ付きのジュース缶
詰め込まれ冷やされてひっくり返され倒され転がり傷つき凹み歪な顔になってしまったプルトップの子供たちは
アクセルを踏む度に荷台から転げ落ちそうになるから
互いに痩せた肩を抱き抱え下から横から斜め前から背後からの激震に耐えているのか
パーキングエリアの人の波も揺れ動き遅々として進まないが
プシュと音がして缶ジュースを開けるように着信メールを確認しながら少しだけ移動するジグザグな人並みを美しく照らす人工の灯火が夕暮れの終焉を伝え
橙色のランタンも灯されて
ささやかに会食が始まると
やっと2メートルほど動けたと生き残った無名兵士達も嬉しそうに声を上げ
疎らに咲くツツジの植え込みが仄かに映えた







初出 「あなたにパイを投げる人たち」の即興ゴルコンダ(仮)
  http://anapai.com/tanpatsu/goru/
  タイトルは、あまんさん







自由詩 生き残った夕暮れがいる橙の窓の灯 Copyright あおば 2013-04-28 18:43:02
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