ノートとじる猿
ともちゃん9さい

さわれないものばかり好きだ
息をするだけで腕ぶんぶんふりまわしてるみたいで
ここあけといてください
ごめんなさい
10年前のノートひらいた

めがねくもるクソ精神科医がまぶしすぎるガチ躁状態患者に嫉妬して
テテテ
テトロピン処方してるの
知ってるよ
ワルツのリズムで知ってるよ

ナースステーションの前ならんで
アーンして
ごっくんして
れろれろするまで
食後が終わらない

そして何人死んだかわからない機能的ベッドに
からだがくいこんでいく
お母さんみたいな看護師さんに「検査です」と無理やりはがされて
「テトロピン嫌です」
って言ったつもりだけど言えてるのかわからない
階段の踊り場で頭ぶつけて
少し戻った意識の窓に空が青かった
季節がわからない

家族は朝ごはんを食べた
まだ砂場かもしれない
夜に網かかる子どもたちのための
砂場なのかもしれない

数時間で100万円使ったり
バイトの人に露骨に無視されはじめたり
友だちのしゃべる速度がおそすぎたり
ノートパソコンの液晶こわれてたり
やさしくしてくれるのは意外な人ばかり

家族も恋人も友だちも思い出の私が本当の私だってこわくて泣いているから電話できない

ひくい声の子どもと手をつないでお手洗いにいく
「シロツメクサありがとう」
「アカツメクサあまいんだよ」

10年前のノートとじる
押し花つくる
子どもにあげたい

さわれないものばかり好きだ
息をするだけで腕ぶんぶんふりまわしてるみたいで
あいてるドアから失礼しますよ

このままでいたかった
すごいいたかった
あちこちいたかった
泣いていた
時計が動かなくても
バイトが動いてしまう
テレビがはじまってしまう
友だちの窓の朝が見たい
違いにはっとして
きっと
今までの意味がわかってしまう
泣いてしまいたい

夕暮れが地面にすこしずつすこしずつとける日をみた
写真にとれなかった
終わる季節と終わってた恋を
ゆっくりあたためたミルクに溶かして牛をわすれたまま飲み干した

ちゃんと考えたらたいていのことはこわい
のどがつっかえる
牛と戦争と女性と国とお肉と原発とお魚だけじゃない
おはしをつけた瞬間ぜんぶ食べなくちゃごはんの時間は終わらない

君は
苦労のない穴に手をのばしてからみついた甘い汁ぺろぺろなめるお猿さんなのかい

誰かじゃない
興味ぶかいおもちゃとお人間との違いを見分ける訓練受けただけでした
だからとっておきの笑顔、テレビにむかってしてるよ

スカート
のぞかない
夏が来る
はずだから
次は、

やっぱりさわれない恋がしたい
さわれない人を好きでいたい
それでも
そうであっても

あのころの私が泣いているのをながめている
あのころの私を助けてくれた友だちと今は連絡取れないけどわすれない
あのころの私を無視したけど今はやさしい友だちとなかよくおしゃべりする
私が全部悪くて無視した友だちの顔をながめている

死にたいと知りたいが似ているから
落ちた花びらあつめて
あつめてぜんぶ食べました
くしゃみして
葉桜の空をしめった手でかくす


※テトロピン
絲山秋子「逃亡くそたわけ」より引用


自由詩 ノートとじる猿 Copyright ともちゃん9さい 2013-04-14 16:08:06
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