東京へは行けなくなりました
蒼木りん

東京へ行くはずだった

駅の構内アナウンス
上りの新幹線に乗るために
開かれた空間
私にも開かれている
コツ コツ コツ..
自分の靴音を聞いて
自動改札をぬける毎に少し緊張
ホームに昇るエスカレーターのスジを
見つめるとも無しに見つめ
銀河に向かうわけでもないのに
星の見える高い場所にある
長い長いホームの間に
冷たい太いレールが並ぶ
東口のビルのネオンを眼に焼き付けて
やがてレールの響きとともに恭しく到着する
巨大な乗り物

遠い昔も今も
都会のネオンの賑やかさの印象は変わらない
暗い路地裏の
その上にそびえ立つビルのネオンは
胡散臭さを隠した夜の街の象徴で
すれ違う人の酒の匂いや香水の匂い
家庭や会社とは別の顔をしたコート姿の男や
水中花のような女が漂って
何処に向かい
何処に帰るのか

東京は
知らない

行くはずだった
私の知らない
私を知らない
東京

都会はどこも
人に使い古された匂い
駅も
劇場も
ホテルも
コンビニエンスストアも
道路も

ダストボックスの口に
プラスチックが溢れてもがく
薬臭い清潔
お湯も水もカルキ
肌が痛い
コーヒーは
香り豆の焦げを溶かした
お湯だ

改札は抜けられなかった
行ってしまうしかない扉へ
切符も持てずに


「東京へは
 行けなくなりました」

あなたとなら
迷わずに歩けたのに
煌びやかな電飾の街

完美と醜悪
自らを刺す刃の先
その街のただ中に


残念だ

私は終わりかもしれない



未詩・独白 東京へは行けなくなりました Copyright 蒼木りん 2004-12-27 11:04:24
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